春

砂吐きて浅蜊に未練はありませぬ
　　
桜貝ひろう少女の耳のいろ

薄紅の肌ふれぬまま桜もち

ゆりかもめ言問いもせず桜餅

触れられるものかと蜆舌をだす

花の香に似合いし弁当箱を買う

左手に弁当下げし女の行く

甘く見ちゃいやよとばかりウニの殻

焼蛤ひらき別れたひと想う

花ふぶき甲羅に乗せて歩む亀

過ぎし時重ねし時と書きかえて春



　　夏

耳たぶの香水ほてる待ち合わせ

海の陽に照らされスイカ色の頬

次の恋けしかけるような熱帯魚

夏やせの線香花火落ちにけり

鮑むく手にひとときの片思い

缶ビール手で温まりて言い出せぬ

のびざかり筍色の羽織紐

ひと口のビールが涙おし出だす

竹の子のごとこき少女のへの字口

唇をもろ肌にせし生びいる



　　秋

無花果の割れるがごとく熟れる恋

いちじくのため息もれて誰を待つ

まつだけのあたしお風呂でドビン蒸し

芋好きの妻と紹介されており

芋の芽に忘れておりしこと思う

わけもなく胸キュンとなりお茶にゆず

子を宿し今日無花果を買いにけり

脱ぎ捨てし身持ちの堅きクリの毬

今日のことあきらめオクラでも刻む

後悔の言の落葉を掃きすてし


　　
　　冬

ゆびさきの赤きは冬の鳩と吾

湯どうふをすくうがごとき恋をして

「冷えますね」豆腐屋の手のなお赤く

おでん鍋君の好みの具をかくし

シャンパンの抜き方うまく少しジェラ

シャンパンを注ぐ中指のながきひと

語りつきシャンパン色の月明かり

待つひとは来ずシャンパンの泡はじけ